大糸北線 DD16ラッセルを狙う!!

2012.12/26

 毎年恒例のクリスマス寒波がやって来た。昨年ほど各地で雪害をもたらすほどの猛威ではないが、クリスマスイブ前夜くらいから日本海側の各地では大荒れの天候になったようで、気圧配置図なんかを見ると北日本を中心に、等圧線がミッシリと狭い幅で並んでいることから、日本海上空はなんとなくどんな感じになっているかは想像できてしまう。

「今宵あたりがピークであろう・・・ならば・・・!」

 日帰り圏内のJR東日本管内は信越本線を除いてすべてENRに置き換わってしまったのは4年前。信越本線のDD14はまだまだ12月では有り得ないので、もし今夜あるとすれば信越ラッセルDE15でも頂こうか? しかし一番列車前の早朝に出動される上に、それなりのスピードで走るDE15を追っかけるには直江津〜妙高高原ではちょっとフィールドが広すぎハイレベルな戦いになることだろう。そうなれば今まで捕獲に成功したことのない大糸北線DD16ラッセルだ。距離は信越のそれとあまり変わらないが、ほぼ全線に渡って国道と並走することに加えて、徐行区間もいくつもあることから追っかけははるかに容易に思われる。DD16・・・。かつて東日本管内では飯山線と大糸南線の除雪を担当していたが、ENRによる置き換えのため撤退。現在はJR西日本の受け持ち区間である大糸線 糸魚川〜南小谷のみである。例年運行回数もそれなりに多く、かく言う自分もDD16狙いで糸魚川に飛んだことは何度かあったが、いずれも失敗。というより運転時刻をよく把握していないまま無鉄砲に大雪の大糸線に突撃しただけだったので失敗して当然の結果だったと思う。では冷静に分析してみようではないか。大糸ラッセルは主に深夜運転ということは知っていた。営業運転を避けて除雪するのだから終列車直後に運転して夜中に積もられたんでは効果が薄い。なので始発前にやってしまうのが各地で見られる深夜ラッセルのパターンのような気がする。大糸北線の一番列車は糸魚川発6:04。この時刻までに除雪を終えて糸魚川に戻ってくるか、途中唯一の交換駅である根知で一番列車とすれ違うとしても、旅客列車とほぼ変わらないスピードと仮定し、南小谷の折り返し時間や重点作業区間の遅滞を考慮しても深夜3時から遅くても4時までに糸魚川を出発しなければ間に合わないことになる。糸魚川のDD16は現在工事中の新幹線高架下のプレハブのような車庫が常駐場所ということは知っている。降雪があった日の夜に3時ころからそこで張っていればいいわけだ。うん、チョロいチョロい。

 というわけで21時半出発しましたよ! 今月初めに発生した笹子トンネル崩落事故の影響で、中央道は依然大月〜一宮御坂ICで通行止めなので、東名高速経由で御殿場ICへ急行。中央高速が分断されているせいもあってか、渋滞はしていないもののかつて見たことのないほどのトラックの群れ群れ群れ・・・。なかなかスピード上げられず御殿場ICで降りて東富士五湖道路で標高1000mの高地を越え、甲府盆地を降りて一宮御坂から中央道に乗った。ここのインター、不通区間と平行する国道20号線とは近接していないためほとんど首都圏〜信越地方の物流の流れに取り残された感じで、こちからもかつて見たことがないほどに走っている車はほとんど皆無だった。世紀末のような無人の高速を走りながらいくつかインターを過ぎると途中から乗って来た車両が徐々に増え、いつの間にかいつもの中央道になっていた。天候はというと日本海側の大荒れの天気が信じられないくらいの星空で、オマケに月明かりで八ヶ岳の山容がくっきりと浮かび上がり美しい。しかし放射冷却で気温計の表示はマイナス7度。小淵沢付近から路肩に積雪が始まり、豊科、もとい新名称に変わった安曇野ICで降りると雪が降り始め、信濃大町を過ぎると路面が積雪で覆われるようになった。しかし降り続く雪は一向に強くならず、これでは一晩の積雪は10cm未満といったところであろう。この程度ではラッセルは出ない。せめて20cmはないとラッセルの運転の有無は危うくなる。一方北上は順調に進み簗場の分水嶺を越えて白馬を通過すると、突如雪は牙をむき出した。大粒の乾雪が音をたててボンネットを叩き、視界は悪くなるばかり。落ちる巡航速度、ますます上がる高揚感!! ほどなくしてDD16の活躍の舞台でもある南小谷に到着。静まり返った駅前ロータリーにクルマを停めて眠気覚ましの缶コーヒーを買おうと外に出ると、ズブッとふくらはぎあたりまで降ったばかりの新雪に沈んでしまった。一晩でおよそ30cmの降雪。クルマに戻り携帯で翌日の運行状況を確認するが、大糸線に関する情報は無く、今から4時間後の一番列車は走らせるつもりらしい。だったら出すでしょ、ラッセル車! 南小谷から糸魚川までの要所要所の踏切を確認するが除雪された形跡は全くなく、線路が完全に雪に埋没している。そんなこんなで寄り道をしながら午前3時前、糸魚川に到着してしまった。まずすべきことは新幹線高架下のDD16の様子。果たして今夜は・・・。

 居ました! 庫内から引き出されて尾灯を点しアイドリングをしているではないか。ここまで来る途中の踏切確認で除雪をされていなかったことから、おそらくこれから出動すると予想される。機関車が見える位置にクルマを停めて張り込み開始。どれくらい経ったのか、少し眠くなってきたのでウトウトしかけると警笛も無く突如としてDD16は南小谷方面へと動き出した。3:25、ラッセル車出動! 駅前通りを国道に出て線路沿いに南下。すでに並走する線路の踏切も鳴っているので近づいてきていると思い後ろを振り返ると、すぐそこまでラッセル車は追撃してきた。結構飛ばしている。負けじと先回りをし、頸城大野手前の踏切へ。照明は監視用の水銀灯一本だから当然暗く、咄嗟にISO3200に切り替えクルマのヘッドライトをロービームにし通過を待った。すでに踏切は鳴っている。来い! 



深夜の踏切で堂々の登場。まだ平野部なので積雪はほとんど無い。
2012.12/26  大糸線   姫川〜頸城大野   EOS5D 24-105mm

 DD16は試雪では見たことがあるが、本当の任務に就くのを見るのは初めてである。天候から予想しはるばる出撃し、その予想が当たったという興奮に眠気も忘れて列車を追うために国道に戻った。次の頸城大野を過ぎると突然雪は本降りになり、未明のためまだ除雪されていない道路故、追っかけのスピードも遅くなる。おまけにスタック寸前の大型車がいたりしてなかなか列車への距離を縮めることができないまま、次の根知駅手前の踏切に到着すると、ちょうど通過する瞬間だった。そのまま南下。小滝の鉄橋へは先回りは成功したが、国道の照明も線路までは届かず光源を見つけられないまま撤収。トンネル区間に突入した。国道148号線はここから姫川沿いに大きく迂回するが、大糸線は長大な鎌倉山トンネルで貫いて一気にショートカットするが、小滝を出てからトンネルまでの区間は雪崩警戒地域のため列車は極低速の徐行運転を強いられていることはキハ52時代に知っていたので、余裕で待ち伏せできることは分かっている。しかし当たり前だがどこも暗い。駅構内か踏切か、禁断のクルマのハイビームかやらない限り撮影は厳しい限りだ。後者は絶対にやってはいけないので平岩駅で待ち伏せるか。しかし駅まで行ってしまうと国道への退路は時間がかかるので、もう一回踏切撮影にすることにした。



2012.12/26  大糸線   小滝〜平岩   EOS5D 24-105mm

 深夜の撮影がこれほど困難だと思わなかった。この先の区間や復路、どこでどう撮ろうか。大糸北線には詳しいが、夜間撮影では妙案が全く浮かんでこない。とにかく先を急ぐべし。長野県への県境を越えて北小谷駅ではホームに上がるとすでに通過中。国道の長大トンネルが連なる区間で一気に引き離しにかかるも、次の中土駅に到着すると早朝過ぎて除雪されていない駅への接近にしばらく手こずり、ようやくホームに上がると北小谷と同様すでにホームに差しかかかってきたところだった。とりあえずビデオだけ回してすぐに撤収。中土で見送ってしまうと次は終点の南小谷だ。折り返しは極僅かな時間と思われ迅速に行動し、その停車時間で撮影したいと思う。南小谷駅に到着。駅裏にある構内見下ろしアングルに向かうべく踏切を渡ろうとすると、突然警報機が鳴りり遮断機が降りた。一番列車の時間ではないし、訳が分からずこのままDD16が大糸南線まで勢いで除雪か!?なんて有り得ない妄想をしたのだが、いかにも新しいディーゼル音がすると東日本のENRが目の前を通過していった。これが数年前なら東と西のDD16が南小谷で顔合わせ、なんて光景だったのかもしれない。



片道の作業を終えて一息つく間もなく、折り返し後半の戦いがすぐに始まろうとしている。
2012.12/26  大糸線   南小谷   EOS5D 24-105mm

 返しの撮影地は何も考えていなかった。国道の道路照明や駅構内、踏切の照明など考えてきたつもりだったが、走行中、つまり排雪中の写真はこの時間厳しいだろうという結果に落ち着き、仕方なく各駅での通過中をいただくことにした。まずは北小谷。5:12。



ダメだこりゃ。
2012.12/26  大糸線   北小谷   EOS5D 24-105mm

 ここ北小谷駅から大断層地帯の県境を越えて長野県から新潟県に戻る。線路も国道も姫川沿いの渓谷を避けるかのようにトンネルで山中を突っ切るので、並走しているであろうラッセル車の現在地を把握することは困難だ。でもこの区間は鉄道は最徐行を強いられる区間。国道は快適な長大トンネルで一気に平岩まで抜けるのでかなり先行していることは確かだ。そこで姫川に注ぐ支流、横川にかかる橋梁に目を付けた。ここは土石流の頻発する地域で、そのためこの川を渡る大糸線のガーター橋は夜間でもライトアップされており24時間遠隔カメラで監視されているようだ。その照明で撮れないものか?クルマを道路脇の雪捨て場にケツから突っ込み、荷室のドアを開けて車内から望遠で狙ってみた。雪は相変わらず音を立てながら激しく降っている。ISO3200 絞り解放 1/6秒。限界であるがやってみた。



止まってくれた・・? ラッセルが通過すると雪のカーテンが出現。
2012.12/26  大糸線   平岩〜小滝   EOS5D 100-400mm

 ところが、である。プレビューで今の暗闇の成果を確認したあと、機材を適当にしまい込み、さて発進とアクセルを踏み込んだ時、回り始めるタイヤにより数cm車体が雪に沈み込むのを感じ冷や汗が流れた。「掘っちまった・・・」 ヤバイ。何度も経験があるがかなりヘビーにスタックしてしまったようだ。これ以上もがいて脱出不能になる前に、一旦車外に降りて4輪すべてのタイヤの前後の雪を三脚の足で堀った。いつもの要領で前進後進を小刻みに繰り返しながらやること数十回。しかし余計にタイヤは雪に埋もれてしまっていてさらに結果が悪くなってしまった。これは頭を使わなきゃいかんな。そう悟りさらに先ほどよりさらに脱出経路を大規模に除雪をしておいた。こんどはさらに慎重に前後を繰り返し、何度かやっているうちにタイヤが雪に埋もれている小石に引っかかった感触があった途端、ようやく深みから脱出することができた。本気で救援を依頼しようかと思った瞬間だった。ロスした時間10分ちょっと。回復運転をしながら頸城大野の平地に戻ってくると、さっきまで音を立て恐ろしい勢いで降っていた雪はみぞれに変わった。少しの明かりで少しでも撮れればと往路にも撮影した頸城大野駅近くの踏切にやって来た。すでに遮断機は下りており駅を通過する2灯の光はコチラに近づいてきているので、咄嗟に車内から撮影する。



2012.12/26  大糸線   頸城大野〜姫川  EOS5D 24-105mm

 DD16が通過し踏切が鳴り終わると、再びあたりは雨の降る音だけが聞える世界になった。一仕事終えた感。急にどっと疲れが押し寄せてきた。目的地でもある糸魚川に着いた途端、休む間もなく往復2時間半の雪の中の撮影&追っかけ。眠さと疲労でこのままここで寝てしまおうかと思ったくらいだが、生活道路でもあるので数キロ市街にいったところにある24時間営業のマックスバリューの広い駐車場で寝ることにした。今夜の成果はまだ見ていない。ひと眠りしてから明日確認してみよう。夜間とは言え初めて出会ったDD16の除雪作業に少し興奮しながらも、今度は昼ラッセルもいつぞや撮影してみたいと思いつつ、駐車場に到着するや否や秒殺で意識を失った。

 目が覚めると正午過ぎだった。6時間も寝たらしい。天気は雪は止んでいるもののどんよりとした曇り空。今日はこの後撮影する計画もなく、まして昨夜の疲労もまだあったので飯でも喰ってのんびり帰ることにしようと、停めていたマックスバリューでおにぎりと菓子パンとお茶を購入。車内で昨日の画像や動画を見たりしていた。そろそろ出発しようか。その前に持ち合わせの資金が無くなってきたので郵便局で金をおろしに行くべく、糸魚川駅前の郵便局を目指した。ちょうどこの駅前郵便局、線路を挟んであのDD16の車庫の目の前である。郵便局に近づき、何気なく車庫の方に目をやるとこの時間はクラの中で昼寝しているDD16がいないことに気付いた。あれ〜?と思いながら郵便局の駐車場にクルマを入れ線路に近づいてみると、昨夜雪と闘ってきたばかりのDD16はクラから出され独り静かにアイドリングをしていた。まさか、まさか・・・んなぁことはないか・・・。 特に気にも留めずATMで資金を引出し、久しぶりに潤沢になった財布で少し余裕が出てきて、「何喰おうかな〜」と呑気に駐車場に戻ると、「いない」のである。あ、クルマが、じゃなくてさっきまでそこにいた愛しのチビロクがいないのである。最初はよく理解できなかったが、柵越しに駅構内を見渡すと、やはり「いない」のである。この数分間で出発していったのだろう。まさか、まさか・・・

まさかのダブルヘッダー!!?

 すぐに国道148号を目指した。大糸線の昼ラッセルは、深夜に運行されるよりは出動回数は少ないが、昼の営業列車1往復を運休させて、ほぼその同じスジに充てながら運行されることは知っていた。今朝あの眠さの中、寝る前に念のため本日の大糸線運行情報をJR西のサイトで確認していたが今日の旅客列車の運休の情報は無かった。ならばあのラッセルはどこに行ったのか? しばらく線路沿いを走り、昨夜最後に撮影した頸城大野近くの踏切で線路の除雪状況を見ようとしたが、もともと平野部では降雪量が少なすぎて判然としない。今日の昼も雪はほとんど降っていないし、これでは先を急ぐのもどうかなと思い始めてきた。そういえば運休情報はどうなっているんだろう。踏切脇で検索すると、今朝は掲載されていなかった大糸線430D〜429D運休のお知らせ!! やっぱあるじゃないかー!時刻的に直前にここを通過した模様。DD16よ、頼む、オレを休ませてくれ!! そして再び国道に出て南下する。ここから次の根知駅までは線路は国道と並走せず、一つ山向こうをトンネルで越えているので列車は確認できない。先行しているのか、はたまた追っかけているのか? そういえばこの先、根知駅構内用の遠方信号機が国道から見えるはず。赤だったら列車は先行しているはずだ。やがてトンネル手前に立つ遠方信号機が見えてくるが、昼間では明るすぎて現示が確認できない。すぐに駅手前の踏切へ。慎重に渡りながら左右を確認すると、

い、いた〜!

 ちょうど遠くに見える根知駅構内を通過中で、黒煙を上げて本線へ出発するところだった。追撃! 次の小滝までの区間で追い越しに成功したが、例の小滝の鉄橋で撮影するにはあまりにも時間がなさ過ぎる。決戦は鎌倉山トンネルを抜けた、あの橋梁だ。



トップページにも使わせていただきました。気付くと雪は本降りになっていた。

2012.12/26  大糸線  小滝〜平岩  EOS5D  100-400mm



北小谷手前にて。場内も近いので極低速。掻く雪も少なかった。

2012.12/26  大糸線  平岩〜北小谷  EOS5D  100-400mm



2012.12/26  大糸線  中土〜南小谷  EOS5D  100-400mm

 終点の南小谷に向かって行ったDD16を見送りながら、自分の中ではとうとう白昼のDD16排雪映像をいただくことができて満足していた。しかし欲望とはなかなかキリが無くて、晴天の中、豪雪を蹴散らしながら進むDD16を撮ってみたいと思うようになっていた。でも今日はまだ時間がある。往路のラッセルでだいぶ掻いてしまったため復路の排雪はあまり期待できないが、新しい撮影ポイントも見つけてしまったら次回に活かせるのではないか?そう思うと後半戦、うかうかしていられないと思い、再び気合が入って来た。まずは定番。保育園裏の踏切から。運休させている429Dの南小谷発は14:21。それ位いにやって来るのだろう。小さな丘の上から待ちわびること10分、20分。あれ? 来ない。これでは運休している429Dの糸魚川着の時間より遅れそうであり、そうすると429Dの折り返しの434Dが出発できなくなってしまう。もしかして根知で交換か? 今日2度目のまさかで運行情報を調べると、案の定434Dも運休だという。出発が何らかの理由で遅れているのか、それとも念入りに作業するための時間確保か? 真偽は分からないが、今はひたすら待つだけである。



14:45。南小谷。折り返し時間の間に積もった雪をラッセルラッセル!
2012.12/26  大糸線  南小谷〜中土   EOS5D  100-400mm

 たった1時間の間にもだいぶ雪は積もったようで、800馬力の小さいエンジンをうならせながら元気にラッセルして去って行った。この下り雪レも追っかけしようと国道にでて北上を開始したが、南小谷〜糸魚川間で国道の唯一線形改良されていない北小谷付近の峠道で先を行く大型トラックが完全立ち往生しており、そのままなすすべなく大渋滞にハマること20分。DD16はとっくに先行してしまい、これ以上の追っかけは断念することにした。初めて出会った日本最後のDD16ラッセル車。そしてまさかのダブルヘッダー。取りあえず記録に残すことはできたので満足し、安曇野ICから中央高速で余韻に浸りながら関東地方に帰った。